白山信仰関係の文献案内
本ページでは、白山信仰を扱った文献のなかで特に参考になると思われる文献を紹介する。
論文
平泉隆房「白山信仰をめぐる諸問題の概要」『藝林』第66巻第1号、藝林会、2017
白山開山1300年に合わせて行われた藝林会第十回学術大会「白山信仰をめぐる諸問題」における講演録である。
白山信仰をめぐる研究史や諸論点がよく整理されており、概観をつかむのに適している。
主要な先行研究だけでなく基礎的な史資料についても列挙されているため、文献案内としても有用である。
なお、著者の平泉隆房は2017当時の平泉寺白山神社の宮司であった。平泉寺白山神社社家の出身であり、祖父に東京帝国大学教授で同じく平泉寺白山神社宮司を務めた平泉澄がいる。
学術書
高瀬重雄編『白山・立山と北陸修験道』山岳宗教史研究叢書10巻、名著出版、初版:1977、オンデマンド版:2000
白山と立山を中心に北陸の山岳信仰に関する論文を収めた論集で、20人の手によって29本の論文が書き下ろされている。
白山に関しては加賀2つ、美濃1つ、石徹白2つ、越前1つのほか、泰澄論と布橋大灌頂を扱ったものが1つずつ収められており、後述する下出積與編『白山信仰』と共に戦後の白山信仰研究の基礎的な部分を提供している。
なお、祭神論に関しては山岸共「白山信仰と加賀馬場」が詳しい。
下出積與編『白山信仰』民衆宗教史叢書18巻、雄山閣、1986
白山信仰に関する論文を集めた論集である。
前掲した高瀬重雄編『白山・立山と北陸修験道』が全て書き下ろしの論文を収めていたのに対して、こちらは白山信仰研究における主要な論点について重要な論文を提示することに主眼が置かれており、平泉澄や玉井敬泉といった刊行当時既に故人となっていた人物の論文をも掲載していることに特徴がある。
主要な論点は「泰澄と白山」「白山信仰の展開」「白山信仰と在地」「祭神論」の四つに整理されており、12本の論文が掲載されている。
なお、編者による解説でも示唆されていることであるが、玉井敬泉による祭神論は泰澄が高句麗姫を祀ったという伝承を拠り所としている。これは文献上の根拠が示されているものではなく、今日の文献史学による批判に耐えうるものではないことに留意が必要である。
一般書
勝山市編『白山平泉寺:よみがえる宗教都市』吉川弘文館、2017
白山開山1300年に合わせて勝山市が刊行した、中世都市平泉寺を様々な視角から取り扱った歴史書。
これまで取り上げてきた文献に比べると郷土史学や歴史地理学的な側面が強いか。
史学史的な観点において特筆すべきは、宝珍伸一郎「白山信仰研究の現状」で白山信仰の研究史上で行われてきた調査が整理されていることであろう。ただし、研究史の紹介は基礎的なものに限定されており、細かな論点にまでは踏み込んでいないことに留意する必要がある。